一針に込める想い──ものづくりと人の力
「パターンの世界は、極めようと思ったら一生かかる」
——そう語るのは、パタンナー歴20年を迎える伊賀崎さん
常に進化し続けること。それが、伊賀崎さんのものづくりの信念です。
「ウサギとカメ」の童話を仕事の指針に、一歩一歩の積み重ねを信じて、入社以来20年間、研究と挑戦を繰り返してきました。
「自分の成長が、そのままお客様の反応につながる」——
その実感こそが、この仕事のやりがいであり、原動力になっています。
伊賀﨑 俊州
パタンナー歴20年
本人曰く「ものづくりの根本を知りたい」との思いからパタンナーの道へ。その奥深さに魅了され、気づけば人生をかける仕事になっていた。
マルチョウではどんなお仕事をされているのですか?
伊賀﨑:仕事の流れとしては、まずディレクターの方と打ち合わせをして、どういうイメージにしたいかっていうのを話しながら、言葉の端々に出てくるニュアンスとかを拾っていきます。それを自分の頭の中で組み立てていき、「じゃあ、こんな感じでいってみようかな」っていうのを形にしていきます。
最初に「トワル」っていう仮縫いのものを作るんです。シーチングとかを使って、先ほどのイメージを実際の形にしていきます。それをデザイナーさんに着てもらって、「ここ、もうちょっとこうしたい」とか「このライン変えたい」とか、そういうやりとりをしながら調整していきます。
次に、今度は工場さんとの打ち合わせに入っていきます。工場さんが縫いやすいように、話し合いの中でパターンをバージョンアップさせていき、実際の製品に近づけていくっていう流れですね。
ものづくりって技術だけでなく「人との信頼関係」も欠かせないんですね。
伊賀﨑:「この人のためなら、ちょっと面倒でもやってあげたい」。そんな気持ちが、ものの出来を左右すると思います。
マルチョウの有る両国は、昔からこの辺はカットソーの産地で、戦後からやってる職人さん達が今も現役でご活躍されていて、いろんなことを教えてくれるんです。
とてもアットホームな場所で、裁断、縫製、ボタン付けや仕上げを近所に頼んだり、全部がこの界隈で完結する感じ。
そういう人達との会話やつながりが、自分たちのものづくりの核になってて、「任せとけ!」とか「ちょっとギリギリでごめんね」とか、そういうやりとりが自然にある。
分業されていても、みんなが横でつながってて、生活の中で一緒に作ってる感じですね。
みなさんプロ意識が高く、本当に尊敬出来る先輩方に囲まれてます。
まさに、GOOD PEOPLE GOOD STITCHING GOOD PRODUCTというブランド名に気持ちが込まれている感じがしますね。GGGに関わる際、最も大切にしていること、心がけていることは何なんですか?
伊賀﨑:昔からずっと変わらないのは、「お客様に喜んでもらうこと」。利益よりも「ありがとう」の一言が一番のモチベーションです。もっと喜んでもらいたくて、どんどん突き進んでいく。
GGGは比較的シンプルなデザインが多いので、他社との差別化を図るためにシルエット(パターン)には特に力を入れています。週末はパターンや縫製の勉強会に参加し、国内はもちろん、時には海外のパタンナーの方達とも積極的に情報交換を行いながら、常に「良いものとは何か」を問い続けてきました。
そんな伊賀﨑さんにとって「良いもの」とは何ですか?
伊賀﨑:「良いもの」って何かと聞かれると、正直難しいです。
極めようとすればするほど深みにハマります。たとえば工場でステッチを打つとき、よれが出ないようにパッカリング(細かなシワ)が出ないようにしますが、綺麗すぎると味がないと言われることがあります。そん時はあえてパッカリングを出すこともあります。お客様によって「良い」の基準が違うからこそ、たくさんの引き出しを持って、その時々のベストを瞬時に出せるようにしています。
GGGの洋服は100%国内生産ですが、やはり「良いもの」に対する探求は日本のものづくりの強みなのでしょうか?
伊賀﨑:そうですね。日本のものづくりを学べば学ぶほど、「本当にすごい」と感じます。
日本のモノづくりの先輩方は海外の製品を細部まで研究し、最初は憧れから始まったと思うのですが、いつのまにか他には無い独自の進化を遂げていると思います。パターンや縫製の技術は単純な足し算引き算ではなく、布の動きを利用して1+1を3や4にしていくんです。まるで魔法みたいに。その技術を言語化している方々が多数いらっしゃいます。
日本製(Made in Japan)って具体的にどこがすごいんですか?
伊賀﨑:たとえば「0.5mmのステッチのズレ」にまでこだわるところ。
「なんでここ、0.何mm飛び出してるの?」っていう会話が普通にあります。そういう小さな積み重ねが、最終的な商品の“顔”に出てくるんです。
一手間を惜しまない。アイロンひとつで仕上がりが変わる。「お金にならなくても、やらないと気が済まない」――そんな日本人の気質が、品質に表れていると思います。
職人の魂を感じますね。
伊賀﨑:はい。GGGの品質の背景には、先人たちのストイックな探求心があります。
パターン制作においても、0.5mm単位で最適解を追い求めた技術者たちの姿勢に学び、私たちも日々「0.5mmの議論」を交わしています。
縫い代の処理や縫い目の角度ひとつにしても、職人同士が真正面から意見をぶつけ合う。
この「妥協を許さない気迫」こそが、私たちが守り続けるMADE IN JAPANの神髄です。
「自分の手を通ったものに不良は出さない」——その覚悟が、日本製への信頼を支えていると信じています。
そして、「神は細部に宿る」。この言葉こそ、私たちのものづくりの本質を表していると思います。
GGGを通じてどのようなメッセージを届けたいですか?
伊賀﨑:GOOD PEOPLE GOOD STITCHING GOOD PRODUCTは、工場で働く人々の技術と誇りを大切にしながら、洗練された品質の商品を届けるブランドです。
私たちの理念はシンプルです。良い人々が、良い縫製をし、良い商品を生み出す。職人たちの手仕事に敬意を払い、その技術が最大限に活かされるものづくりを目指しています。
それはただの衣服ではなく、作り手の誇りを纏う服。
そして、その誇りは、一つひとつのディテールに宿り、研ぎ澄まされたシルエットや質感となって形を成します。
身に纏った瞬間に感じる洗練された存在感。
それこそが、私たちが追求するものづくりの本質です。
時代を超えて愛されるもの、手にした人が特別な気持ちになるもの。
機能や品質はもちろんのこと、すべての要素が調和し、心を動かすデザインへと昇華される。
それが、good people good stitch good product のあり方です。